ゲーム業界の最新動向、ゲーム開発や運営に関連した情報を発信する、ゲーム業界で働く人,ゲーム業界を目指す人のための情報サイト「Gamebusiness.jp」にて、Nativexの寄稿記事が掲載されました。
現在,e-Sportsが世界中で旋風を巻き起こしています。例えば,プロのe-Sportsプレイヤーの中には,自宅でゲームをストリーミングプレイし,何千もの視聴者を魅了している人もいます。またe-Sportsのトーナメントが開催されると,まるでオリンピックスポーツのスタジアムと見間違えるような熱狂が起きており,実際にオリンピックの正式種目化へ,といった議論も生まれています。e-Sportsは,ゲームという産業をさらに大きく躍進させる可能性を秘めています。今後のゲーム開発では無視できないトピックとなっていくでしょう。
誕生したばかりのe-Sports。そのシステムもルールもまだ発展途上ですが,多くのスポーツ競技同様,今後ますますグローバルの渦の中で成長し,成熟を見せていくことでしょう。もちろん,ある国だけのローカル独自で発展するe-Sportsもあるとは思いますが,オリンピックの話が出ていたように,多くのe-Sportsは,グローバルな環境の中で影響し合ったり,競争があったり,協業したりと,グローバルな動向とは切り離すことができないのが実情です。
つまり,プレイヤー,競技主催者,e-Sportsに出稿する広告主……など,e-Sportsに関わる人であれば,グローバルな動向を把握することが求められるよになってきています。
そこで,本コラムでは次の3回に分けて,e-Sportsのグローバルの動向を紹介していきます。
e-Sports業界で起きている6つのグローバルトレンド
ゲーム業界の動向を調査する世界大手の調査会社Newzooが先日発表したレポート「Global Esports Market ReportGlobal Esports Market Report 2019」では,近年のe-Sportsのグローバル動向と将来展望を詳細にまとめています。このコラムでは,Newzooのそのレポートから得られたことを中心に,最近のe-Sports業界で今起きている興味深い点を6つに分けて紹介します。
1. グローバルe-Sportsの市場規模は,2019年に11億ドル超の見込み
2019年はe-Sportsの売り上げが初めて10億ドルを超えると見込まれており,e-Sportsにとって大きな節目の1年となりそうです。
Newzooのかつての予想では,e-Sports市場が10億ドルの売り上げを突破するのは2020年までかかるとの見通しが立てられていました。しかしながら,2018年時点の推定市場規模はすでに8億6500万ドルに達しており,現在も加速度的な成長を続けていることから,Newzooは今年中に10億ドルを突破する可能性が非常に高いと予想し直しています。
ここで重要となるのは,e-Sportsが衰えを見せず急速な成長を続けているという点です。e-Sports市場は現時点で前年比26.7%増の伸びを見せ,2022年には18億ドルの市場規模を突破すると予測されており,投資家,ゲーム業界,広告主にとって無視できない存在となっています。
e-Sportsのグローバル市場規模(ドル)推移
2. 売り上げの80%超は企業によるスポンサー料などが占める
e-Sportsは,広告主が企業や商品をアピールする絶好の機会でもあります。
2019年には,e-Sports業界の売り上げ見込み11億ドルのうち,メディア権,広告費,スポンサー料などによるブランド投資が8億9700万ドルにのぼると予測されています。実に全体の80%超を占めます。
内訳として,最大なのがスポンサー料で4億5000万ドル以上と見込まれています。多くの広告主がe-Sportsを通じたマーケティング展開に投資することになるでしょう。
また,e-Sportsのメディア権は前年比で41.8%増の伸びをみせ,最も急成長を見せるe-Sportsの収益源となっています。
3. e-Sportsの視聴者数は急拡大中
e-Sportsでは,視聴者数というのが長らく最も重要な指標の一つとされてきました。
2017年にe-Sportsの総視聴者数は3億3500万人に達し,さらなる急成長を続けています。今年のe-Sportsの視聴者数は,全世界で4億5400万人に達すると予測されています。こうした視聴者のうち2億5300万人が「たまに観る視聴者」とされ,2億1000万人が「e-Sports愛好家(熱心な視聴者)」であるとされています。
注目すべき点は,e-Sports愛好家として定義される視聴者の割合は,たまに観る視聴者と比べて,より急速に増加しているということです。e-Sportsを積極的に視聴する人が増えれば増えるほど,e-Sportsは広告主にとっては魅力的なメディアになるでしょう。それはつまり,スポンサー料の拡大にもつながるのです。
※e-Sports愛好家:プロないしプロレベルの選手による賞金付きのトーナメントやリーグ戦を視聴する回数が月に1回以上の人と定義されている。
e-Sportsの視聴者数(人)推移
4. 最も多くのe-Sports愛好家がいるのは中国
世界最大級のゲーム市場である中国。ここには,e-Sportsについても世界で最も多くの愛好家がいます。中国では,e-Sportsはゲーム業界の大きな収益源となっており,現在も加速度的に成長を続けています。およそ1億3500万人の視聴者がe-Sportsを視聴し,米国と並び主要な市場とされています。
現在までに中国では,e-Sportsに対して積極的な投資と支援が行われています。中国各地にe-Sportsタウンが誕生し,たとえば杭州は,世界のe-Sportsの中心地となるべく,なんとフットボール競技場68個分の広さのe-Sportsタウンを建設しました。中国政府も,e-Sportsを職業として承認し,e-Sports関連企業との間で取引したり,パートナーシップを結んだりしています。
このような流れから,今後も中国がe-Sports業界の大きな成長を後押しする存在となっていくことは間違いないでしょう。
5. 2018年の賞金総額は1億5,000万ドルを突破
e-Sportsにとって,賞金制度は不可欠な存在です。賞金の獲得は,e-Sportsのあらゆる個人やチームにとっては欠かせないものとなっています。Newzooのレポートによると,昨年はトーナメントの主催者が賞金水準を引き上げ続けたことにより,総額で1億5000ドルを突破しています。
2018年にもっとも多額の賞金を誇ったのが「Dota 2」で,公式世界大会「The International 2018」においては2550万ドルを超える賞金総額が用意されました。また大会「League of Legends World Championship」での賞金総額は645万ドルとなっており,Epicの人気マルチプレイヤーゲーム「Fortnite」のFall Skirmishシリーズにおいては400万ドルの賞金が用意されました。なお昨年,トーナメントでもっとも多くの賞金を獲得した国として首位に立ったのは中国です。
賞金の増額は,プロのe-Sportsプレイヤーの活躍シーンをさらに増やしていくことでしょう。
6. 5000万時間超の視聴があった「League of Legends World Championship」
2018年にもっとも視聴されたゲームは何でしょうか。首位に輝いたのは,大会に盛大な広告キャンペーンを打っていた「Overwatch」ではなく, 「League of Legends」でした。
最も視聴されたLeague of Legendsの総視聴時間は3億4000時間超,それに続くのが「Counter-Strike: Global Offensive」で2億7000万時間超,「Dota 2」は2億5000万時間の視聴時間を記録しました。
League of Legendsの成功の決め手となったのが,e-Sports大国の韓国で開催されたLeague of Legends World Championshipの決勝戦です。この大会では膨大な数の視聴者を集め,5000万時間を超える視聴時間を達成しました。大会のオープニングには,League of Legendsのヒーローにインスパイアされた架空K-POPユニットである「K/DA」の,AR(拡張現実)キャラクターが出演するなど,視聴時間増に貢献しました。K/DAはLeague of Legendsをきっかけに,何百万ものYouTubeの視聴者を魅了し,さらには世界中のヒットチャートを駆け上がるなど,より多くのファンを引き寄せています。
K/DA のように,e-Sportsがきっかけで,ブレイクする人や企業というのは今後ますます増えていくことでしょう。ゲームだけでなくさまざまな形で,e-Sportsに関連したビジネスチャンスが広がっているのです。